Eco Design Center

ECO DESIGN COLUMN
エコデザインコラム
2010年3月26日

『ヒートアイランドに配慮したまちづくり』

大阪大学名誉教授    水野稔
~エコデザインセンター開設記念セミナーより~

 本日はヒートアイランドに配慮したまちづくりについての考え方と、どのように進めるべきかの事例を紹介しますので、ヒートアイランド対策への理解を深めていただきたいと思います。

 都市が年々暑くなっています。それは、ヒートアイランド現象と地球温暖化という二重の温暖化によるものと考えられます。ここ50度的傾向にあり、特に顕著なのが夜間気温の上昇です。日中は日射により地面が加熱し、大気が上昇・拡散し、地表に溜まらない。夜間は夜間放射で地面が冷却され、大気が安定し、熱は拡散せず地表に溜まる。私は、ヒートアイランドは夜間現象だと考えています。

 私の研究室で1985年と2002年に、新御堂筋から箕面方面にかけての気温を測定したところ、1985年の測定結果では、大阪都心から淀川辺りまでは気温が高く、淀川を過ぎると下がっていく傾向が見られた。2002年の測定結果では、淀川を過ぎて桃山台(豊中市)辺りまで気温は高いまま。約20年の間に淀川から桃山台までがヒートアイランドに飲み込まれてしまったわけです。

column20100327_photo01.jpg それは、熱代謝を無視した都市づくりの結果だといえます。アスファルト、コンクリートなどの重い材料は、昼間の熱を夜間に持ち越します。ビルの凹凸やアスファルト面は日射吸収がよい。緑や水面の消失は蒸発機能を低下させる。風通しの悪い街路は熱の拡散性を悪化させる。そして大量なエネルギー消費をしている。私たちはこうしたまちづくりを行ってきたわけです。

 近代的都市の手本は欧米先進国にあり、それらは概ね寒冷地にあって熱代謝を考える必要のない都市です。日本は暑い地域の都市でありながら、寒冷地の都市のような熱容量の大きい材料でまちづくりをしてきたことが間違いだったと思われます。冷房技術は外部から入った熱を、エネルギーを上乗せして外に追い出しているわけで、室内は涼しいが、外はますます暑くなります。

 ジェームズ・ラブロックが提唱したガイア理論では、「地球は生命体」だと主張しています。自然の空間デザインでは、気温が上がると水が蒸発、暖気が上昇し、周りの冷気を引き込んで、気温の上昇を抑える働きをする。これを「負のフィードバック機構」と言います。逆に冷房は「正のフィードバック」であるわけで、外気がますます暑くなる構造、人間の未熟なデザインだと言えます。ガイアのデザインにも「正のフィードバック」構造があり、それは雪、氷、砂漠化などです。

 兼好法師は徒然草の中で「住まいは夏を旨とすべし」と説いています。私はまさにそのとおりだと思います。その時代には建築が周囲気候を変えることはなかったわけです。ところが、現代の熱代謝を考えない都市づくりでは、都市は単なる建築の集合ではなくなっています。全体計画的な対応が必要であり、兼好法師の言葉を借りれば「都市づくりは夏を旨とすべし」。夏を基準にして、住まいという単体でなく、都市全体というワンランク困難な課題に対応する必要があります。熱代謝に配慮した現代都市の構築は、温帯から亜熱帯地域にとって重要な課題であり、わが国、特に大阪のような都市から、世界に向けたモデルを示すべきしょう。

 地球温暖化の熱負荷は分りやすいのですが、ヒートアイランドの熱負荷は見えないという問題があります。地球温暖化の二酸化炭素排出量は環境家計簿にもあり、容易に分ります。エネルギー消費が分れば自分の位置が分る。だから生活デザインが可能となります。一方のヒートアイランドは熱負荷が分らない状況であり、皆が参加しようにも手がかりがない。ヒートアイランド熱負荷の見える化が重要な課題です。

 大気に伝わる熱量には顕熱と潜熱の2種類があります。熱の捨て方の問題になりますが、顕熱は捨てると気温を上げる。熱くなることが見えるから顕熱と言います。潜熱は、熱を捨てても気温は変わらないから分らない。潜った熱だから潜熱と呼ばれ、水蒸気の形で熱を大気に捨てること。例えば30℃で空気を1℃上げる顕熱は、じつは相対湿度の1.5%の上昇と等価であり、水が持っている蒸発熱はそれだけ大きいということです。私たちは、当面、顕熱のみを熱負荷として考えることを提案しています。

column20100327_photo02.jpg 顕熱の潜熱化は有力なヒートアイランド対策と言えます。街中に植物をいっぱい植えるとヒートアイランドは緩和されます。日射を遮ることも1つの要因ですが、もっと重要なことは、植物は蒸発散作用によって顕熱を潜熱に変換する機能を持っていることです。もう1つ重要なことは水を蒸発させることで、これは直接的な潜熱化と言えます。つまり、顕熱の潜熱化として「緑と水の保全・回復」が重要なヒートアイランド対策になります。

 ヒートアイランドへの対策目標は不完全な状況にあります。私たちが取り組もうとしている課題は、ヒートアイランド熱負荷削減をベース情報とする対策体系の確立です。ヒートアイランド熱負荷は、多くの因子の影響を受けるため、サイエンスの観点からでは最適とはいえません。例えば技術の評価も、熱負荷削減能で横並びにして相互に比較する必要があります。また、開発などの要件では、通常の設計に比べ何W/㎡の熱負荷を削減するというまちづくりをすべきでしょう。

 ヒートアイランド対策として、熱代謝を配慮したまちづくりが重要さを増しています。例えば風の道を考えた建物配置をする、公園緑地など緑の復活を図る。これらは長期的な課題であり、過密都市ではなかなか困難だと思われます。私のお勧めは、水を活用した「蒸発促進都市構想」です。例えば10W/㎡の顕熱の処理は、敷地200㎡の家庭で1日35リットルの水の蒸発で達成可能であり、バケツ2杯程度の水を庭に撒けばよいことになります。

 蒸発促進都市構想の対策事例を紹介しましょう。例えば打ち水を町内会の活動として取り入れる、下水処理水などを活用して散水者で道路に散水する。また、御堂筋などを使って、地下水を道路の上から散水すれば、道路を走る自動車が蒸発源になってくれます。自動車の屋根にスポンジを貼ることで保水でき、走る蒸発機能を発揮することにもなります。公園緑地の散水の場合も高所から散水することが大事です。アーケード商店街やオープンカフェ、コンコース空間でのミスト涼房、河川水の噴水による蒸発促進、冷房排熱の水系への放出、エアコン室外機への散水なども効果の上がる事例ではないでしょうか。

 ヒートアイランドに配慮したまちづくりとして、南千里丘地区で進めている事例があります。この地区の基本コンセプトは「環境配慮の街」。地球に住む責任を果たす街として、通常設計より25%のCO2排出削減、もう1つは都市に住む責任を果たす街として、通常設計より昼は23W/㎡、夜は12W/㎡の熱負荷削減を設計目標としています。具体的な数値目標を示した上でまちづくりを行うという、このような取り組みを、国や府市が制度化することも大事なことではないでしょうか。

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